拓本の種類



(分類方法)





 拓本は、「どのような碑から採ったか」、「どのような手法で採ったか」、「どのような形に仕上げたか」、「装丁されているか」、「いつ頃採られたか」などにより、以下のように分類できます。



(1)どのような碑から採ったかによる分類

@原刻本(げんこくほん)原拓(げんたく)

 原碑(本物の碑石)から採った拓本歴史的に有名な碑から採った原拓本は非常に貴重かつ高価。拓本を採れば採るほど碑が痛むことから、採拓が禁止されていることが多く、入手すること困難になっている。因みに、原石はすでに無くなっていて、世界にただ1つ残っている拓本のことを「孤本」とか「海内孤本」と言う三井聴冰閣(三井文庫別館蔵)の「孔子廟堂碑」がその代表格である。唐・626年の刻で、唐代に火に遭い原石は滅んだと言われ、その後、多くの重刻(後述参照)が作られた。



 中国の一部の博物館等では本物の原拓本が販売されていることもありますが、近年、碑面保全のため新たな採拓が禁止・制限されるようになり、拓本の供給量が非常に少なくなっている。こうしたことに加え、中国国内の経済発展に伴う物価上昇や富裕層を中心とした美術・骨董品等に対する国内需要の急速な高まりを背景に、原拓本の価格は高騰しており、次第に入手が困難になりつつある(注)。



(注)例えば、西安碑林博物館にある「元髟謗叙チ」の原拓本は、同博物館近隣の露店で販売している土産用のレプリカであれば15元程度(200〜300円)で購入可能であるが、同博物館内でその原拓本を購入する場合は7,000〜9,000元(日本円で13〜18万円)程度の価格となる。


(注)日本でも神田神保町の一部の書店等では中国の有名な碑石の拓本が販売されている。但し、その販売物をみると玉石混合というのが実態であり、店側の目利きの問題からか贋物も少なからず含まれているように窺われ、それらも相応の高値で販売されている。本物の原拓を入手するためには、購入の際に自分で確りと真贋判定できる高度な目利き力が不可欠と言える。




A重刻本(じゅうこくほん)

 原碑を模した石(重刻)から採った拓本。厳密には、孔子廟堂碑のように、原碑が失われたため、原拓本を基に作成された碑から採った拓本を重刻本というが、貴重な原碑を傷つけないために作られた碑から採ったものを指すことも多い。西安碑林博物館内の売店で販売されている拓本の多くは後者に相当するが、その場合、標題に「重刻」と記されており、安価なものでも500元程度(1万円弱)と相応の値段となっている(注)。



(注)重刻の中には、西安碑林博物館の所有している精巧なものもあれば、質の悪いものもあり、どの重刻碑の拓本かによっても価値が大きく変わる。書道を習う者にとって、印刷技術がなく手本が容易に入手し難い時代であれば、質の悪い重刻本であっても重宝されたであろうが、印刷技術が発達した現代においては、質の悪い重刻本は無価値に等しい。




B翻刻本(ほんこくほん)

 原石が存在するにも拘わらず、儲けるためにつくられた「まがいもの」。原拓本の希少性が高く入手困難であり、かつ需要が高い碑に多い。例えば、九成宮醴泉銘や顔氏家廟碑などがその代表格。重刻本との線引きが難しいが、「人を欺く悪意を以って作られたもの」が翻刻本と言える。通常、重刻本は、きちんと「重刻」と標題に記載されている。


 西安の書院門の露店等で売られているお土産用のレプリカも、翻刻本に分類すべきもの(価格は10〜50元程度と安価)。質の悪い重刻本ということもでき、議論が分かれるところ。




C偽刻本(ぎこくほん)

 本来存在しない碑をでっち上げるために作った碑から採った拓本。清〜民国時代にかけて金石学派と呼ばれる書家が、希少価値ある拓本を好み、高値で取り引きされたことから、お金目当ての商人等により多くの翻刻本が作られました。今となっては無価値なもの。








(2)どのような手法で採ったかによる分類



@間接法による拓本

 拓を採る対象物に紙を被せ、その上から墨を乗せて採った拓本。湿拓法と乾拓法に大別される。



イ、湿拓法(しったくほう)



 湿らせた紙を対象物に被せ、刷毛などで擦ることで紙と対象物の間の空気を押し出して密着させた上で墨を載せて拓を採る方法。擦拓法、撲拓法に分類される。



a.擦拓法(さったくほう)・・墨を含ませたフェルト等を拓紙にワイパーのように擦り込んで墨を打つ方法。碑面が平らで滑らかであることが条件。



b.撲拓法(ぼくたくほう)・・・最もポピュラーな拓の採り方。湿った紙を対象物に乗せ、刷毛で擦って密着させ、紙が白くなるくらい乾いてきた段階で、タンポで叩くように墨を乗せていく方法。



ロ、乾拓法(かんたくほう)



 乾いた紙を対象物に被せ、鉛筆などで擦ることで対象物の凹凸を浮き上がらせる拓の採り方。紙が対象物に密着しないため、精巧な拓が採れないほか、紙がズレやすいため、対象物が小さくなければ拓が採りにくい。



A直接法による拓本

 拓を採る対象物に直接墨を付け、紙を被せて押さえたり擦ったりして採った拓本。対象物が墨で汚されることから、書道の拓本においては、基本的にこの方法で拓を採ることはないタブーである)。




(3)どのような形に仕上げたかによる分類




 紙に墨を乗せる(=上墨)際、「墨を乗せる→乾かす→墨を載せる→乾かす」の作業を何度行うかによって墨色の濃さに違いが生じる。この違いにより、烏金拓、蝉翼拓に分類される。また、これとは別の分類で隔麻拓がある。



@烏金拓(うきんたく)

 何度も上墨を繰り返すことで、烏の濡れた羽のように、光沢のある墨色に仕上げた拓本。漆と見紛うものもある。



A蝉翼拓(せんよくたく)

 過度に上墨を繰り返さず、蝉の翼のように薄墨で透明感を残すように仕上げた拓本。スキルの高い者が採った蝉翼拓では、拓本を眺めるだけで碑面の様子が手に取るように蘇ってくる。もっとも一般的な手法。



B隔麻拓(かくまたく)

 対象物に紙を被せ、麻の上から木槌等で叩くことで紙を密着させた後、タンポで上墨する方法。麻の布目が紙に付くため、上墨した際、麻布の目が浮き出る。




(4)装丁状況による分類




 拓本を装丁したかどうかにより、@整本・套本とA剪装本に分類される。



@整本・套本(せいほん・とうほん)

 採拓したままの状態で、切ったり表装したりしていない拓本。採拓したときの碑全体の状況がそのまま残っているため、研究材料としても優れている。拓本は折り畳んで保管し、鑑賞する都度、広げる必要があるため、古い拓本で、書道の手本としては不向きである。紙が痛んでいる場合は、必要に応じ裏打ちして補強する場合もあるが、基本的に拓本は裏打ちしたり表装しない方が価値が高い。



A剪装本(せんそうほん)

 拓本は、採拓したままの状態では大きく、手本とするには不便であるため、1行ずつ同一寸法で切り取り、裁断して製本した拓本。日本に伝わる著名な拓本の多くは剪装本である。あくまでも手本として利用される場合には便利であるが、基本的に、整本・套本の方が拓本としての価値は高い。但し、剪装本の中には、有名な書家や収蔵家が所有していたものには跋文書かれていたりや所蔵印が押されている場合があり、それ自体が価値を高める材料となる場合もある。




(5)拓本を採った時期による分類




 拓本を採った時期により、@旧拓とA近拓に分類される。碑石は風雨や自然災害などにより時代とともに壊れ劣化していくほか、拓本を採れば採るほど碑が痛むため、古い拓本であるほど碑作成時の姿に近く、価値が高い。残念なことに、拓本を採る人が、自分が採った拓本の価値を高めるために、一字を打ち壊す(=それ以降の拓本ではその字は欠損となる)といったケースもあった模様。



@旧拓(きゅうたく)

 基本的に、清朝中期以前に採られた拓本を指す。

A近拓(きんたく)

 基本的に、清末民国期以降に採られた拓を指す。





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