拓本の理論価(試行)




<このコーナーで示した拓本の理論価は、一定の前提を置いて導き出した試算値であり、その価値を保証するものではありません。また、当サイトでは、当該理論価を参考にしたことにより生じたいかなる不利益についても責任を負いません。予めご了承下さい>



 近年、中国の目覚ましい経済発展の中で、富裕層が沢山生まれている。そして、彼らによる美術・骨董品の「爆買い」により、拓本の価格は急速に高騰している。中国は清代末期以降の混乱の中で、歴史的な文物が散逸・紛失したため、中国国内に良質の美術・骨董品があまり多く残されておらず、富裕層が高まる購買力を背景に、日本をはじめ海外に流出した歴史的な文物を買い戻す動きが強まっている。このため、日本国内にある中国の歴史的文物の価格も上昇が続いている。





 中国には、古いものを尊ぶ「尚古趣味」という価値観が存在する。「古玩」を所有するということ=成功者としての「ステータス」、という感覚である。日本人にも同じような価値観はあるが、古いもの(歴史のあるもの)への憧れは、日本人のそれとは比べ物にならぬ強さがある。戦前に日本人が中国から持ち込んだ貴重な原拓の数々が、その所有者が亡くなった後、骨董品市場やオークションで売りに出される中、中国人がそれを日本人が太刀打ちできないような価格で購入していくという事例が増えている。


 こうした状況の下、拓本価格の上昇ペースが急であるために、拓本を購入あるいは売却しようとしても、「いくらくらいが適正価格か」が分かりにくくなっているのも事実である。日本での拓本価格の上昇の主因は、上述のとおり、中国の経済発展に伴う中国人による需要増加であるため、20年程前に売買された拓本の価格をベースに、中国人の購買力や物価水準の変化を加味することで、現在における拓本の理論的な価格を算出することが可能と考えた。


 このコーナーでは、中国経済の急拡大が始まる前の、1990年代における拓本の売買事例をベースに、物価や為替レートの変動を加味した拓本の理論価を試算した。


 拓本の価値は、売買されている拓本の質(いつ頃採択された拓本か、拓本の状態、跋文などの有無など)によって大きく異なる。このため、このコーナーで算出した拓本価格は、あくまでも「○○年に●●円(あるいは元)で売買された拓本は、△△年には▲▲円の価値がある」ということを示す(つまり、“当時”取引されたものと同じ拓本が“今”取引されたらどのような価格設定となるか、を示す)もの、とご理解頂きたい。

 



 具体的な試算の手順は以下のとおり。



<試算の手順>




@過去の売買事例における取引価格



古書等から1990年代における拓本の売買事例を収集し、その際の取引価格を特定する。


売買事例が元建て価格の場合 → 当該価格を使用

売買事例が円建て価格の場合 → 当時の円元レートで元建て価格に換算



A物価調整



中国では経済発展に伴い物価が急速に上昇しているため、売買事例の時点から現在までの間における物価変動率を乗じて物価調整を施す必要(拓本価格の物価追随率は1.0で試算)。


物価調整の方法としては、GDPデフレータ(中国経済全体の物価変動率)を用いる方法と、消費者物価指数(消費に関する財・サービスの価格変動率)を用いる方法の2通りを採用(IMFデータを使用)。例えば、現在の物価が売買当時の物価に比べ1.5倍になっている場合は、当時の取引価格に1.5を乗じる。









B円建て価格への換算



前述Aで算出した物価調整後の拓本価格は元建てであるため、これを円ベースに換算する必要がある。日本円と中国元の為替レートは変動するが、円安(元高)の時期は円ベースの価格は押し上げられ、円高(元安)の時期には同価格は押し下げられる。2012年後半以降、為替レートが円安方向に振れているため、日本国内での(円建てでみた)拓本価格は値上がりしている。










 以上を踏まえると、拓本価格の決定要素は以下のとおり示すことができる。




過去の拓本の売買事例における取引価格


(今回の分析では、1990年代における拓本の売買事例を使用)

×


経年滅失に伴う希少価値の上昇


(今回の分析では、20年程前における売買事例を基に試算を行っている
が、この程度の期間で希少価値が大きく変化することは想定されないた
め、
分析対象外とした。中長期的にみると、旧拓は事後的にその数を増や
すことができない中で、戦争や災害あるいは時間の経過とともに滅失し、そ
の数は減少していく一方であるため、
拓本の希少価値は、高まることは
あっても、低下することはない
と考えられる)

×


中国人の購買力の拡大

物価変動要因


(社会全体の所得水準が上昇すると、モノの価格も上昇する。これは物価
上昇という形で顕れるが、今回の試算では、一般的な物価と同じペースで
拓本の価格が上昇すると仮定した。急速に大量の富裕層が生まれている
中国では、魅力的な投資対象の一つとして美術品に対する需要が高まって
おり、拓本価格の上昇率は、一般的な物価よりも上昇率が高い可能性があ
る点には留意しておく必要がある。なお、物価と賃金水準には高い相関関
係が認められるが、中国では当面1人当たり所得が増加していくとみられる
ため、物価水準が、日本のように継続的に下落するような事態は当面想定
されない。このため、
「物価」は、当面、拓本価格の押し上げ要素として
働き続ける公算
である

×


円元レートの変化

為替変動要因


(仮に中国内での拓本価格が不変でも、為替相場の変動により円建てでみ
た拓本価格は上昇したり下落したりする。一般的には、経済成長率が高い
国の通貨は、経済成長率の低い国の通貨に対し、「上昇」するため、日本
円は中国元に対して安くなるはずであるが、中国元の相場が米ドルと連動
して変動する中で、日本円が90年代半ば以降、米ドルに対し円高基調で推
移したこともあり、円元レートは長年、1元=12〜16円前後のレンジで推移し
てきた。結果的に、円建てで見た拓本価格は、本来上昇したであろう時期
に上昇せずに済んだ、ということができる。但し、2012年後半以降、アベノミ
クスや異次元の金融緩和を背景に円安が進行したことから、ここ数年は、
為替要因での拓本価格の上昇がみられている。
2012年のレートが1元=
12円69銭、2015年のレートが1元=19円44銭であるため、この3年間
での為替要因による値上がり率は+57.4%ということになる。
この先、
短期的には円高に振れる時期もあるであろうが、中長期的には経済理論に
従い日本円は中国元に対し割安方向に動いていくと考えられるため、
「為
替」は、拓本価格の押し上げ要素として働くものと推察される。





 これを具体的な時系列計数で示すと下表のとおりとなる。


取引事例の取引価格が「円建て価格」の場合は、その価格に、当該年のGあるいはIを乗じると、現在の円建て価格の理論価が算出できる。



取引事例の取引価格が「元建て価格」の場合は、その価格に、当該年のHあるいはJを乗じると、現在の円建て価格の理論価が算出できる。






<参考>





<実際の売買事例を基に算出した個別案件の理論価>




(注1)上記はあくまでも、試行的に過去に売買された拓本の現在価値を経済学的に計算した参考値です。これを参考にすることにより生じたいかなる損害も当サイトは責任を負いません。また、試算の精緻化等を目的として予告なく変更することがあります。

(注2)本データを無断で使用することはご遠慮ください。著作権・所有権の扱いなどの留意点については、「6.当サイトに関する留意事項」をご参照下さい。



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