拓本デジタル鑑定 (顔氏家廟碑)





 拓本の真贋を鑑定する際の最大のポイントは、拓本に写し取られた碑面にある無数の「傷」である(碑石そのものが有する「石花」と呼ばれる割れ目も同様)。ついつい字の形に注目しがちであるが、精巧に作られた重刻・翻刻は、原刻の字形を忠実に再現しているものも少なくなく、両者を丁寧に折半照合しても、なかなかその違いに気付くことはできない。

 拓本に写し取られた碑面の「傷」は、拓本の真贋だけでなく、拓本が採られた時期を推測する際にも重要な情報を与えてくれる(参考 Click)。一度碑面に付いた「傷」は消えることはないため、拓本が採られる度に、また、時が経ち碑面の風化が進む度に、「傷」の数は増えていく。

 このため、ある時代に採られた拓本には付いている傷が、他のある時代に採られた拓本にはない、ということになると、前者の拓本は後者の拓本よりも新しい、ということになる。もちろん、碑面の傷だけでなく、字自体の傷や棄損状況も同じであるが、字の形状については、比較的容易に摸刻されてしまうため、参考程度に考えておくことが肝要である。

 話を元に戻すと、碑面の傷は、非常に細かい上に、その数も膨大であるため、それらを全て正確に、かつ本物そっくりに彫り直すことは技術的に困難であり、真贋を判定する上で非常に有用ということである。仮にそうした困難を乗り越えて原拓そっくりの重刻・翻刻を製作したとしても、そのコストを回収するのは至難の業だろう(拓本の市場規模はそこまで大きくない)。

 拓本を取り扱う人達は、複数の原拓の写真等を参考に、目の前にある拓本の真贋を鑑定することになる。有名な碑については、定石とも言える鑑定のポイントがあり、そういったものを解説した本もある(例:崇善楼書系 増補校碑随筆 修訂本)。そうした本がなくとも、市販の書籍を横に並べ、じっくりと字と傷の形状・場所を比較することで、「これはニセモノかもしれない」、「おそらく本物だろう」といった真贋の判断はもちろんのこと、「いつ頃に採られた拓本か」を推測することができる。

 烏金拓(うきんたく)と呼ばれる、墨で何度も上墨を繰り返すことで、烏の濡れた羽のように、光沢のある墨色に仕上げる拓本の採り方があるが、この手法で採られた拓本は、字以外の部分が真っ黒になってしまうため、傷も見えなくなる。拓本を鑑定する立場からすれば、有り難くない採拓方法である。

 近年はデジタル技術が発達しており、比較する2種類の拓本の画像をパソコンに取り込み、両者を重ね合わせて比べることも可能である。目視だけでは正確な判断がつかないこともあるが、画像を重ね合わせれば、字の形も傷の場所も一目瞭然で比較できる。また、デジタル画像としてパソコンに取り込むことで、コントラストや明るさなどを容易に調整できるため、目で気付かなかった傷を見つけたり、後から墨を盛った可能性のある個所などを洗い出すこともできる。

 以下では、顔氏家廟碑の旧拓の画像を比較してみた(1段目:小生収蔵拓本、2段目:書壇院収蔵拓本、3段目:両者を透過して重ね合わせた画像)。参考にされたい。



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